東京地方裁判所 平成7年(ワ)20911号 判決 1996年12月18日
原告
繆英長
被告
金子和也
主文
一 被告は、原告に対し、金一九六万二二二六円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二一〇万七五七九円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実及び容易に認められる事実
1 原告は、普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転中、平成七年三月一三日午後三時五分ころ、東京都目黒区鷹番三丁目一二番八号先路上において右折し始めていたところ、原告車の後続車である、被告運転の原動機付自転車(被告保有。以下「被告車」という。)が原告車の右側面に衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
2 被告は、自動車損害賠償保障法三条本文に基づき、本件交通事故により原告に生じた損害を賠償する責任を負う(乙第三号証から第七号証まで、原告の本人調書一項・二項)。
3 原告は、本件交通事故により頸部挫傷・右前胸部打撲の傷害を受けた(甲第二号証の一、乙第一号証)。
4 原告は、次のとおり、合計八四日間通院した(甲第二号証の一ないし五、第三号証の一ないし三、乙第一号証、第二号証)。
(一) 古畑病院 平成七年三月一三日及び同月一四日(実通院日数二日間)
(二) 工藤鉄男接骨院 平成七年三月一七日から同年五月八日まで(実通院日数三一日間)
(三) 東蒲田接骨院 平成七年五月九日から同年七月八日まで(実通院日数四八日間)
(四) 国際親善総合病院 平成七年八月三日から同月二一日まで(実通院日数三日間)
二 争点
本件は、<1>過失相殺、<2>本件交通事故と相当因果関係がある損害の範囲が争点である。
1 原告の主張
(一) 過失相殺について
被告は、進行していた道路に追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制があり、原動機付自転車(被告車)の最高速度が時速三〇キロメートルとされているにもかかわらず、追越しのため右側部分(対向車線)にはみ出し、時速約四〇キロメートルで走行したため本件交通事故を起こした。そして、原告には、被告車のように違法異常な運転をする車両が存在することまで予見して周到な後方安全確認義務を尽くすべき注意義務はない。
したがつて、原告には、本件交通事故につき過失はない。
(二) 損害の範囲について
(1) 治療費 五九八六円
国際親善総合病院に係るものである(甲第三号証の一ないし四)。
(2) 文書料 七五四五円
国際親善総合病院に係るものである(甲第四号証の一ないし三)。
(3) 休業損害 一〇九万四〇四八円
休業損害は、次の数式のとおり、賃金センサス平成五年第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者学歴計、全年齢による平均年収額四七五万三九〇〇円、平成七年三月一三日から同年八月二一日までの間に原告が通院した日数八四日間に基づき算定した一〇九万四〇四八円である。
4,753,900×84/365=1,094,048
(4) 慰謝料 八〇万円
(5) 弁護士費用 二〇万円
2 被告の主張
(一) 過失相殺について
被告車が進行していた道路は追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制があるが、被告車のように小回りの効く単車が右側部分(対向車線)にはみ出して走行することはままあるから、原告には、原告車のサイドミラーで右後方の確認をすべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠つたため、本件交通事故が起きた。
したがつて、原告には、本件交通事故につき三〇パーセントの過失がある。
(二) 損害の範囲について
(1) 古畑病院の診療録(乙第一号証)には、頸椎捻挫を受傷した際に現れるはずの頸部運動制限・手指のしびれに関する記載がなく、握力の低下がない旨の記載がある。
また、古畑病院の証明書(甲第二号証の一)には、「約1週間の安静加療を要す見込」との記載があるから、本件交通事故から一週間内の損害が本件交通事故と相当因果関係のある損害である。
(2) 工藤鉄男接骨院及び東蒲田接骨院の施術は、医師の指示によるものでないから、本件交通事故と相当因果関係がない。
(3) 国際親善総合病院の診断書(甲第二号証の五)には、「頸部痛と事故の因果関係については不明である」との記載があるから、国際親善総合病院の治療は、本件交通事故と相当因果関係がない。
第三当裁判所の判断
一 過失相殺について
1 本件交通事故の態様は、
(一) 被告車が停止した地点が別紙現場見取図(一)の<1>(1における以下の<甲>、、<2>ないし<6>、<×>、<ア>ないし<ウ>も、別紙現場見取図(一)記載の記号である。)、そのとき、停車車両が<甲>、駐車車両が、
(二) 被告が、右側道路(対向車線)を見た地点が<2>、
(三) 被告車が、右側道路(対向車線)を進行し始めた地点が<3>、
(四) 被告が、遠方を見た地点が<3>・<4>、
(五) 被告が、最初に原告車を発見し、危険を感じたためブレーキを掛けた地点が<5>(なお、このときの被告車の速度は時速三五キロメートルないし四〇キロメートルである。)、そのとき原告車が<ア>、
(六) 衝突した地点が<×>、そのとき被告車が<6>、原告車が<イ>、
(七) 被告が被告車ごと転倒した地点が<7>、原告車が停止した地点が<ウ>、というものであり、被告車の進行していた道路には、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がされている(乙第三号証から第七号証まで、原告の本人調書一項・二項)。
すなわち、本件交通事故において、被告は、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制に反して右側部分(対向車線)にはみ出して走行した上に、原動機付自転車の最高速度である時速三〇キロメートル(道路交通法二二条一項、道路交通法施行令一一条)を超える速度で走行した。
3 以上、前記1及び2で述べたことを総合すれば、本件交通事故において、原告には五パーセントの過失があるとするのが相当である。
二 損害の範囲について
1 古畑病院の診療録(乙第一号証)の平成七年三月一三日の既往症・原因・主要症状・経過等欄には「頸椎可動域full。握力右35kg・左35kg。手指のしびれなし。」との記載があるが、同日の処方・手術・処置等欄には「頸椎カラー」との記載がある上に、同病院の証明書(甲第二号証の一)には「頸部挫傷」との記載があるから、同病院の医師も、原告が頸部挫傷ないし頸椎捻挫の傷害を受けたと判断したものと推認できる。
また、たしかに、同病院の証明書(甲第二号証の一)には「約1週間の安静加療を要する見込」との記載があるが、これは平成七年三月一四日における見込みを記載したものにすぎず、この記載をもつて、本件交通事故日から一週間内の損害だけが本件交通事故と相当因果関係あるとすることはできない。
2 そして、工藤鉄男接骨院及び東蒲田接骨院に通院すべき旨の医師の指示がなかつた(原告の本人調書三〇項ないし三二項)が、工藤鉄男接骨院の診断証明書(甲第二号証の二)には「傷病名 頸椎捻挫。初検時頸部後部に腫脹・圧痛有り。又、後屈・右側屈制限有り。現在前記症状は改善されたが、後頭部から頸部後部の自発痛残存するため、いましばらくの施療を必要とします。」との記載、東蒲田接骨院の診断証明書(甲第二号証の四)には「傷病名 頸椎捻挫。負傷日平成7年3月13日、初検日平成7年5月9日。僧帽筋、胸鎖乳突筋攣縮し、前後屈・回旋やや困難。鋭意加療により漸次軽減、中止に至つた。」との記載があり、両接骨院での旋術により治療効果が上がつていると認められるから、両接骨院への通院は、本件交通事故と相当因果関係がある。
3 一方、国際親善総合病院の診断書(甲第二号証の五)には「平成7年3月13日交通事故の既往あるが、事故後約5ケ月経過しての当院初診にて、頸部痛と事故の因果関係については不明である。」との記載、同病院の外来診療録(乙第二号証)の平成七年八月三日欄には「圧痛<+>、後屈痛<+>、ジヤクソン及びスパーリング<->、徒手筋力テスト及び知覚np、事故による骨傷なし。頸椎直線化。相手とのトラブルになりそうだが、現在事故後五ケ月経つてからの初診なので、診断書等を書くにも事故と関連づけて書くことはできないと説明。」との記載がある上に、同病院の診察を受けた理由が、治療のためというよりは本件訴訟の証拠とすべき書面を作成してもらうためであつたと窺えること(原告の本人調書七項)、東蒲田接骨院の診断証明書(甲第二号証の四)には「鋭意加療により漸次軽減、中止に至つた。」との記載があり同接骨院の施術により症状がほとんどなくなつたと窺えるところ、その約一箇月後、国際親善総合病院の診察を受けていること(東蒲田接骨院で最後に施術を受けた日が平成七年七月八日であり、国際親善総合病院の初診日が同年八月三日であることは、前記第二の一4(三)(四)のとおりである。)からすると、国際親善総合病院の治療が、本件交通事故と相当因果関係があるとまでは認められない。
4 したがつて、国際親善総合病院に係る、治療費(全額)及び文書料(全額)は損害とは認められず、また、休業損害も、古畑病院、工藤鉄男接骨院及び東蒲田接骨院への通院日数である八一日(前記第二の一4)に基づくことになる。
5 それゆえ、原告の損害は、次のとおり、一九六万二二二六円となる。
(一) 治療費 〇円
(二) 文書料 〇円
(三) 休業損害 一〇五万四九七五円
本件交通事故前の原告の年収は、平均すると四七五万三九〇〇円を下回らないと推認できる(甲第六号証、第七号証の一・二、第八号証の一ないし四、第九号証の一、第一一号証の一ないし三、原告の本人調書一三項ないし一九項)から、休業損害は、次の数式のとおり、一〇五万四九七五円である。
4,753,900×81/365=1,054,975
(四) 慰謝料 八〇万円
慰謝料は、弁論に現れた諸般の事情を総合すると、八〇万円が相当である。
(五) 損害合計 一七六万二二二六円
右(一)から(四)までの合計一八五万四九七五円に、過失相殺(前記一)を考慮すると、損害合計は、次の数式のとおり、一七六万二二二六円となる。
1,854,975×(1-0.05)=1,762,226
(六) 弁護士費用 二〇万円
本件における認容額、訴訟の経過等を斟酌すると弁護士費用は二〇万円が相当である。
(七) 損害総合計 一九六万二二二六円
右(五)の金額に右(六)の金額を加算した金額である。
三 結論
よつて、原告の請求は、一九六万二二二六円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 栗原洋三)
現場見取図(一)
現場見取図(二)